マリー

 彼の言う事は分かるし、納得もできる。知美は涙を拭うと、必死に呼吸を整えようとした。

「分かった。でも、もう一度だけ、マリーに会いたい。酷いことを言っちゃったから謝りたい」

 岡崎は戸惑いを隠せない表情を浮かべながらも、自分の知り合いを呼ぶことを条件に知美にあの家に戻ることを許可していた。


 岡崎の家の前に立つと、深呼吸をした。岡崎の知り合いの姿はまだ見えない。

 家の中に入ろうとした知美を知り合いが来るまではと岡崎が制した。

 その時、家の中で何かが壊れる音がした。

「音がする。何かあるんじゃないの?」

 家の中に入ろうとした知美を岡崎が制す。

「後から考えればいい。もう少し離れよう」

「でも、泥棒かもしれないよ」

 岡崎は釈然としない表情を浮かべ、鍵を玄関に差し込んだ。鍵の開く音がし、岡崎は扉に手を伸ばす。だが、彼はそのまま動きを止め、顔を引きつらせていた。

「鍵が開かない」

 施錠される音がした。

「どうして?」

 驚いた知美が玄関に手を触れると、滑るように扉が開いた。

「開いたよ」

 そう言い振り返った瞬間、背後から全身をつかまれ、家の中に引きずり込まれる。

 そして、知美の正面でガラスが震えた。

 扉に触れても微塵も動かない。

 思わず窓ガラスを叩くが、ゴムを叩いているかのような感触が両手に残るだけだ。

「どこでも良い。窓を壊してもいいから、外に出なさい」

 外から扉を叩く音とともに、岡崎の声が響く。