生臭い匂いが鼻先をつく。そして、車の助手席には先程まで知美の手の中にいたはずのマリーが座っていた。

「マリーが、どうして」

 知美は身動きがとれず、その場に立ち尽くす。

 将は知美の視線に気付いたのだろう。肩越しに振り返っていた。

「これは麻里の……」

 将の口から言葉が漏れる。その言葉とほぼ同時に、知美の視界から消えるように車が動き出す。

 次の瞬間ガラスの砕ける音が静寂を打ち消した。知美の体はその場に崩れ落ちる。そして、家から出てきた伊代が将の車に向かうのが見えた。