夕飯の支度を済ませると、駐車場の前で車が止まる音がした。

そして下から着信音が聞こえた。

私はコソッと玄関を少しだけ開けて、外を覗いた。

うわっ、最悪。

またあの黒い軽自動車。

銭湯で迎に来た軽自動車と同じ。

永田さんはすぐに軽自動車に乗り込んで、走り去って行った。

………。

「永田のアホ!」

私は思わず布団にスライディングみたいに勢いよく横になって、うずくまった。

「…もうやだ…なんでこんなにショックなの私は…」

私はモモちゃんにラインした。

『副所長、さらわれました。複雑なキモチ』

しばらくして、

『ただちに明日にでも、作戦を実行しなさい』

OKマークかよ(笑)

でも、今は私から口をきかないようにしてるからなぁ。

いきなり、おかずを持って訪問したら、また嫌な言い方されちゃうよ。

「コレ、なんのマネな訳?」

ってね。

アハハ。

意外とアイツのモノマネ、私うまいじゃん。

独りでウケちゃってるけど。

あの光景と銭湯の光景を思い出すと、また落ち込んじゃうよ。

『新情報ゲットした。私より2コ下だってさ』

モモちゃんにラインしたら、今度はすぐに返ってきた。

『2つだなんて、ほとんど同じ年と変わらないから問題ないし』

……。

ほぼ付き合える前提じゃん、コレ?!

『飲み会やってくれるから、そん時に仲良くしてみる』

『チャーンス☆』

チャンスねぇ。

『としこっち、元気出して』

モモちゃ~ん!ありがとう!!

しかしながら翌日も、普段通りお互いに完全無視。

雑用のシンデレラ。

勝手に命名しやがって、クソ永田。

せっせと磨いて、せっせと拭いて、せっせと洗って、せっせと履く。

寒空の中で、履き掃除をして今日もまた4時間をやりこなす。

落ち葉を1枚だけ指で拾って、空へとかざす。

キレイに染まってるじゃん。

「ヒヤッ!」

首元に急に熱を感じて、振り返る。

「さぼってんなよ」

「永っ…」

「ほらよ、みんなにはシーだぞ」

缶コーヒーを渡された。

「あ、ありがとうございます」

私はポケットに熱い缶コーヒーを入れて、続きの履き掃除をした。

何よ、急に…。

歩み寄ってるつもり?

今度は優しくして…。

混乱するじゃん。

そして3日程過ぎた頃に、帰りがけの私に所長が伝えてくれた。

「土曜日の夜に、歓迎会を開く事になったから、仲良く楽しくしましょう」

「はい」

土曜日…。

あらら…。

街コンと、かぶっちゃったよ…。

どうしよう…。