「いや、それは止めておこう。パートナーストレッチングプログラムはユニフォームが汚れるから朝練には向かないよ」
知ったかぶりして大が言う。

パートナーストレッチングプログラムとは二人一組になってやる所謂柔軟体操のことだ。

でもそれが妙に的を得ていて、セルフストレッチングプログラムをすることに決まった。


太ももの表側は踵をお尻に付けるように曲げる。

内側は前屈みになり掌で膝を包むように。

腰は、そのまま掌で足首を掴む。

腰の外側は上に伸ばした手を繋ぎ体を横に倒す。

胸は両手を後ろで繋ぎお尻の下に移動させる。

後頭部で両手を組み、胸を反らす。

肩は手を伸ばし頭を向ける。

これは全員が常にやって来たものだ。


「これからも、そのまま続行だ。まずは体作りを基本にしよう」

直樹が最後に締める。
全員が納得したように頷いた。




 そこへコーチが遅れてやって来る。


「遅いよコーチ。昨日から朝練早くなったんだから」
大が得意そうに言う。


「何ー!?」

部員のブーイングを受けて大は縮こまった。


「昨日遅れて来たヤツが……」
秀樹の一言でみんな大笑いをした。

秀樹の脳裏に、一瞬美紀が浮かんだ。


(――あちゃ。大のこと言えねー、俺も下手したら仲間入りだったかな?)

秀樹は頭を掻いた。
その様子を見て大が首を捻った。


大は野球部のムードメーカーとしての素質は充実にあった。

秀樹は何とかチームを纏めるために一役買って欲しいと本当は思っていたのだった。


朝練の方向性が決まった。

柔軟体操と走り込み。
まずは基本となる一人一人の体力作り。

甲子園に向かって零からの出発。

本当は投げ込みたい秀樹。
自分を抑えチームを一つに纏める。
そのために頑張ろう。
秀樹が又少し大人になった瞬間だった。


直樹はキャプテンとて張り切っていた。
美紀にカッコイイところを見せたかった。
夕べのお風呂の中で、兄弟としてではない感情に目覚めて戸惑った。

そしてそれは、美紀が小さい頃から好きだった。
と言う気持ちに辿り着く。

直樹はその時、大のことなどすっかり忘れていた。


野球部は直樹が新入団の頃には余り纏まっていなかった。


上級生はてんでんに下級生をしごいていた。

でも太刀打ち出来るはずがない。