今昔狐物語


「お前の兄がそう呼ぶのを聞いた。近頃ずっとお前を見ていたからな」


名前を知っている。

ずっと見ていた。


(どうして…?)



「なぜ…私を好きになったの?」


純粋な問いに、飛牙は喉で笑った。


「獣の恋に理由などなかろう」

至近距離で愛しい少女の頬を撫でる。


「ちよの匂い。ちよの仕種。ちよの声。それらが俺の中の獣の本能を刺激した」


彼の金の両眼が妖しく煌めく。

「そして今…ちよの瞳、ちよの吐息、ちよの肉体…。それら全てが俺を誘っている」


いきなり首筋にきつく吸い付かれた。

「あ…!」

ビクリとちよの身体が反応する。


「ふっ…好ましい」