今昔狐物語



 その日の日暮れ時、ゆきを心配していつもより早めに帰った遊真。

「ゆき、大事ないか?」

「心配性ね遊真は。私なら平気よ?」

父親を置いてまで慌てて戻ってきた遊真に苦笑しつつ、まだ目立たない腹を撫でる。

「お腹が膨れてないから、全然実感ないけれど…いるのよね。ここに、遊真と私の子」


命を慈しむゆきの眼差し。

一瞬、母親の表情を見せた彼女を抱き寄せ、遊真は囁いた。

「ゆき…腹に子ができた今、君に…話さなければならないことがある」

「そういえば、今朝も何か言いかけてたわね?何?」


緊張、不安、戸惑い。

遊真の心臓が早鐘を打つ。


「実は…俺は…」


その時だった。


「大変だぁ!!や、野盗が!野盗が来…うぁああ~!!」

家の前での断末魔の悲鳴。

それはゆきの父親のものだった。


「今の声…お父さん!?」

思いがけない事態にゆきが動転して表へ飛び出す。

「ゆき!出るな!」

遊真も慌てて後を追った。


「お?若い女がいるぜ?」

「しかも田舎の村娘にしちゃあ美人だな」

父親の悲鳴の通り、外には野盗とおぼしき男達が集まっていた。

「きゃあ!?」

地に転がっている父親の死体を前に、ゆきは為す術もなく羽交い締めにされる。