今昔狐物語


そう、嬉しいに決まっている。

けれど遊真にとって、ゆきの妊娠は絶望と隣り合わせの恐怖に等しいものだった。


(俺とゆきの子…)

宿った命に対して、遊真はゆきに言わなければならない事実がある。

それはずっとひた隠しにしていた真実。


(伝えなければ…)


これでたとえ彼女に嫌われようとも、突き放されようとも、もう隠してはおけない。


「ゆき…」

「ん?何?遊真」

「その…」

ゆきと視線が交わる。

自分を好いてくれる純粋な瞳。


(この瞳が、蔑みを孕んだら…俺は…)


「遊真?」

「い、いや…何でも、ない」


言えなかった。

(今でなくても大丈夫だ。今夜か、明日か…)

二人きりの時に打ち明けよう。

胸中の不安を押し殺しながら、遊真は冷静に考えた。