ちよの村は規模が小さい。
ゆえに顔見知りじゃない人間はいないのだ。
知らない人間はよそ者であり、それは大概において年貢の取り立てに来る役人か野盗と相場が決まっている。
だが、この青年。
役人にしては雅な着物を着ているし、野盗にしては品が良い。
「あなたは、誰?」
真剣な眼差しを向けると、彼も正直に教えてくれた。
「俺は飛牙。狐さ」
二人を囲む狐火がゆらりと揺らめく。
「狐?まさか、さっきの大きい黒狐?」
「正解だ。さすが俺の嫁。鋭いな」
「…待って。私はあなたの嫁にはなれないわ。なる気もないし」
「なぜだ?こんな魅力的な俺からの求愛をはねつけるのか?」
飛牙は舌でペろりとちよの首筋を舐めた。
「やっ…だって、私は人間であなたは狐でしょう?」



