今昔狐物語


頬を打たれた理由が愛情からだとわかり、遊真は固くしていた表情を和らげた。

「…いいものだな」

「え?」

「ゆきが俺の心配をして、怒ってくれる。…いいものだ」


彼は怒られたことがないのだろうか。

心配されたことがないのだろうか。


(遊真は、不思議…)


自分にとって当たり前のことを、彼は「いいものだ」と言ってくれる。


「戻ろうか。長居をしてはゆきの身体にも悪い」

そして遊真はゆきの手を取った。

(あ…遊真の手、あったかい)

身体はずぶ濡れなのに、自分よりも大きな彼の手は温かくて、ゆきはそれをとても心地好いと感じた。