今昔狐物語



 その日は夕方から大雨になった。

ゆきの父親や他の村人達は早々に仕事を終え、家に戻ってきた。

しかし、帰宅する男達の中に遊真の姿はなかった。


「お父さん、遊真は?」

心配になったゆきがびしょびしょに濡れて帰った父親に尋ねる。

「ああ、なんだか社に寄ってから戻るとか言ってたぞ。こんな雨の中を、なんだって社になんか…」

「社に…?」

こんな時に遊真が社に行く理由。

(まさか、私のお供え物が無くなってるか確かめに行った、とか…?)

その時、激しい落雷の音が響いた。

「ひでぇ天気だ」

「遊真さん、大丈夫かしらねぇ」

両親の会話を聞き、ゆきはゴクリと生唾を呑んだ。


(遊真…!)


気づいた時には家にある唯一の傘を引っつかみ、外へ飛び出していた。

「ゆきちゃん!?」

母親が呼んでいるがそれを無視してゆきは走った。

向かうは社。

所々に穴が目立つ傘をさしながら、彼女は夫のもとへ急いだ。