今昔狐物語


「遊真、何しているの?」

何気なくした質問だったが、なぜか遊真は身体をビクリと過剰に反応させた。

「あ…ゆき。いたのか」

焦ったような表情で振り返る。

「出ていくのを見てしまって…。社に用があったのね。お供え?」

「いや、その…少し…拝みたくなって…」

ゆきは遊真の隣りまでやって来ると、その小さな社を覗いた。

「あ、まだ残ってる」

昨日自分がお供えした握り飯がまだそこにあるのを見て、ゆきは軽く溜息をついた。

「まだ食べて下さってないんだ…」

「ゆき?」

妻の残念そうな表情に「どうした?」という思いを込めて名を呼んでみる。

すると彼女は唐突な話題を口にした。


「知ってる?遊真。ここには本当に神様がいらっしゃるのよ」

「神、様…?」

「そう。私が握り飯をお供えすると、いつも数日後には無くなっているの。お父さんは否定するけど、私は社の神様が食べて下さったって信じてる」