少女が意識を取り戻したのは、すっかり夜も更けた頃だった。

「ん…痛っ」

後頭部の痛みで目が覚めたちよは起き上がって辺りを見回した。

「ここは…洞穴…?」

暗い夜なのに周囲を確認できたのは明かりが灯っていたからに他ならない。

ちよの身体を囲むように、赤々と燃える四つの炎が宙に浮いていた。

「火が、浮いてる…?」

不思議な光景に目を見張っていると、甘く低い声がした。


「それは狐火だからな」


洞穴の入口の方から人がやって来た。

「だ、れ?」


座り込むちよを上から舐めるように見つめてくる青年。

彼はにんまりと笑んで答えた。


「俺は飛牙(ヒガ)」


腰まである長い黒髪。

闇に光る金色の瞳。

飛牙と名乗った美しくも妖しいこの男。

彼は狐火に照らされ、ちよの目にはいっそう妖艶に映った。