そんな村に、十三歳の少女、ちよも住んでいた。

「ちよ、お前は早く村に戻りな。後は兄ちゃんと父ちゃんでできっから」

その日、夕方近くまで畑仕事を手伝っていたちよ。

日が暮れる前に、一足先に村へ帰るよう兄に促され、彼女は「うん」と頷いた。


村から畑までは子供の足で十分程度。

割と近いため、何事もなく戻れるだろうと思っていた。


しかし――。



小道を歩いていた時だった。

森が迫る左手側から一匹の黒狐がちよの前に飛び出してきた。


「きゃああ!」


彼女が驚いたのも無理はない。

なんせ、その黒狐は普通見かける狐よりも二回りくらい大きかったのだ。


黒狐はびっくりしているちよを素早く地に押し倒した。

「あっ!」

その拍子に、固い地面へとしたたかに後頭部を打ち付けたちよ。

打ち所が悪かったのか、そのまま意識を失ってしまった。