今昔狐物語



飛牙に惹かれる気持ちと赦せない事実との間で揺れる心。

ちよの戸惑いが極に達した時だった。


「ちよ~!!」

突然、木々の向こうから父親の声が聞こえた。

「お父さん!?」


ガサガサと草を踏みつつやって来た複数の村の男達。

その先頭にちよの父親はいた。


「ちよ!良かった!心配したぞ!」


昨日、娘が行方不明になったため、父親は村の男達に頼んで朝からちよの捜索をしていた。

息子同様、死体となった娘と対面する覚悟をしていた彼にとって、この再会の瞬間以上に喜ばしいものはない。


「おお!やっぱり無事だったか!」

「死体がなかったからな。探しに来て良かった」

口々に安堵の声を零す村人達。

そんな張り詰めた緊張が解けた雰囲気の中、ちよの父親が尋ねた。


「ちよ、その人は誰だ?」