今昔狐物語


「お前だけなのだ。野狐と化した俺の心に、希望をくれたのは」

ちよのような人間もいると知って、涙が出そうになった。


憎しみを心に、人間を喰らい続けた自分。

好き好んで喰らっていたわけじゃない。


喰らう度に虚しさを覚えた。

その虚無を埋めたくて、再び喰らう。

その繰り返しだった。


しかし、もうよいのではないか?


ここに、命を慈しむ大切さを知る人間がいるではないか。



「だから、俺はお前を欲した。ちよと共にいれば、これ以上無駄な殺生をせずに済む。そう思った」


飛牙は壊れ物に触れるように、ちよの頬をそっと撫でた。


「お前は優しい娘だ。その心が愛おしい」


慈愛に満ちた、彼の笑み。


(ずるいよ、飛牙)


狐だとか人喰いだとかどうでもよくなる程、飛牙の台詞はずるい、そうちよは思った。


(そんなふうに言われたら…)


心が揺れる。

揺れてしまう。