ギラギラした眼差しで兄を睨みつける遊真。
今にも飛び掛かって来そうな白狐に飛牙は眉根を寄せる。
「………お前まさか、ここまで人目に曝しながら持ち歩いてきたのか?」
「そうだ。これは俺の妻、ゆき。ゆきと一緒に歩いて何が悪い」
バチバチと、一方的に怒りの火花を飛ばしている遊真を見て水真馳が苦笑した。
「まあまあ、飛牙。遊真を許してやって下さい。愛する女性の遺骨を持ち歩きたいという遊真の気持ちは、私もわかるんです」
そう言って、彼は自身の胸に手を当てる。
服の下には首から提げている小さな袋。
その中には幸の小指の骨が入っている。
他の骨は墓に埋めてしまったが、彼女から貰ったこの「愛の証し」だけは今も肌身離さず持っているのだ。
「なーんで白狐って幸薄いのかな~。俺、黒狐で良かったー」
相手の心情も考えずこんなことを言ってのけたのは玖羅加の息子、氷雨だ。
飛牙に似て大胆で生意気な性格。
見た目年齢二十歳くらいの彼は今日の主役である双子の兄がまだ来ないことに少々苛立っているようだ。



