今昔狐物語


「ハァ……」

零れたのは黒いドロドロした気持ちを含んだ深い溜息。


「お待たせ」

ジクジクと這い上がる彼の狂気なんて知らずに、コーヒーを持って来たあかりは笑顔でそれを差し出した。

受け取る気にもなれず風真は髪飾りを弄る。


「ねえ、やっぱり男と会ってるよね」



――バキッ!!


彼の手の内にあった髪飾りがいとも簡単にへし折られた。


「なっ…!?風真くん!!何して…!?」

「僕がいるのに、他の男から貰ったんでしょ?そんなこと許さないよ」


なぜバレたのか。

わけがわからず、あかりはコーヒーのカップを取り落としそうになる。

「あかり、君は僕のものなんだ」

壊れた桜を床に落とし、彼は平然と言った。

「今度の日曜日、君を僕の親族に紹介するよ」

「え…」

「本気だから」

横から掻っ攫われる前に、手を打つ。

迎えに来るから逃げられないよと半ば脅しながら、風真はあかりを抱き寄せた。