今昔狐物語


「やあ、いきなりゴメンね。今夜大丈夫かな?」

「うん」

短い返事をしてあかりは彼と二人、小さなソファーに座った。

こぢんまりとした部屋に丁度いい二人掛けのソファー。

このアパートは大学生になって借りたものだ。

少し狭いが一人暮らしをするには充分だと、あかりは気に入っている。


「コーヒーでもいれようか?」

会話がないのであかりは当たり障りのないことを口に出した。

「そうだね、もらえるかな」

にこやかに微笑む風真。

あかりは愛想良くキッチンに立った。



「……ん?」

コーヒーを待っている間、風真はテーブルに置かれた桜の髪飾りに気がつき、それを手に取った。

彼女の部屋にはよく来るが、初めて見るものだ。

「綺麗だね。これは――」

買ったの?と聞こうとして風真はハッとした。


(この臭い…)


髪飾りから感じる気配に顔をしかめる。