今昔狐物語



 風真はマンションで一人暮らしをしている。

たまにお邪魔するあかりは、だいぶ慣れてきたはずの空間に吐き気を覚えた。


(ここに、あの人を連れてきたりしたのかな…)


憶測は疑惑に変わり嫌悪感を抱かせるから厄介だ。


「あかり、愛してるよ」

感じ取った他の雄の臭いをあかりから消すように、風真はいつも以上に擦り寄ってくる。

ベッドで彼女の身体を支配する時も、彼は愛の言葉を繰り返した。


「愛してる……あかり」


(なら、なんであの日…違う女といたの…?)


キスも愛撫も、泣きたくなる程優しくて。


(どうして私に嘘ついてまで、会ってたの?)


こんなにも愛されてるはずなのに、彼の「愛してる」がわからない。


ふと、火叉七の顔が頭を過ぎった。



――なら彼氏のこと信じてやりなよ。好きなら、信じなよ



(火叉七さん…やっぱり私……不安だよ)


素直に信じられないから苦しい。

泣き出しそうになった時だった。

「……ねえ、誰のことを考えてる?」

繋がった身体が激しく求められた。

「っ…!!」


彼と心が繋がる日は来るのだろうか。

あかりの目尻から涙が零れた。