可愛は泣きじゃくりながら叫んだ。

この声が言霊となり願いを叶えてくれるならば、嗄(カ)れてもなお声を張り上げてみせよう。

そう、心に思いながら。


「えの、ちゃん…俺の病……うつって、ない…よな?」


立っている力もないのか、ズルズルと木の下に座り込んでしまった青年がポツリと問い掛けた。

「大丈夫よ!私は大丈夫っ」

「そ…か。良かっ…た」


また、咳が出る。

喀血した彼の唇が血に染まった。


「嗚呼…今夜は、月が…綺麗だな――」


ふと見上げた夜空にぽっかりと浮かぶ月。

「そうなの!今夜は月がとっても綺麗でしょ?だから私、絵師様と見れたらどんなに素晴らしいかなって思ってて――」


喋りながら青年の横顔を見た可愛は一瞬言葉を失った。


「絵師様…?」


閉じられた瞳。

だらりと木にもたれる身体。

まるでそれは眠っているようで。


けれど、死んでいるようにも見えて――。