慌てる可愛に彼は苦笑した。

「ずっと……黙って、た……俺は…結核――ゴホッ!ゴホゴホッ!」

「病なの!?そうなのね!?」

苦しげにしゃがみ込む青年の背中を可愛は優しく撫でる。

少し落ち着いたのか、咳をしていた彼はゆっくり話し出した。


「今に、始まったことじゃ…ないさ……ただ……死期が、迫ってる」


彼はふらふらと立ち上がると桜の木に近寄った。

「俺は、ここに……死に、来たんだよ…えのちゃん」

そっと木に寄り掛かると気怠げな眼差しを可愛に送る。

青年は口元に笑みを作った。

「最期くらい……好きな、ところで…死にたい…だろ?」


ゴホッゴホッと、また嫌な咳をする。


「絵師様!何言ってるのよ!そんなこと言っちゃ絶対にダメ!言葉には魂が宿ってるのよ?そんなこと言ったら現実になっちゃうんだから!」

瞳を大きくして泣きそうな顔をする可愛が彼の着物に縋り付いた。

そんな彼女の髪を青年は震える手でそっと撫でてやる。

「はは……なら、えのちゃんが言って…?俺は……死なないって…これから先……生きて……夢を、叶えるっ、て」

「死なないわ!!あなたは死なない!これからもずっと、ずーっと生きるの!生きるんだからぁ!!」