そして翌日。

可愛は弟に宣言した通り、青年に会うべくまた桜の下にやって来た。

今日は会おうと約束したわけじゃないが、何と無くここに来れば会えるような気がしたのだ。


「いないなぁ…」


訪れた時、桜の木の周りに人はなく、可愛はちょっとションボリしたが、前向きに考えるのが彼女だ。

「待ってれば来るかもしれないわよね!」

お気に入りの桜の下に座り、大事に持っていた彼から貰った櫛を見つめる。

瞳に映るは、黒の背景に舞う白き蝶。



――君は蝶が好きと言っていたっけね



蝶が好きと言った自分の言葉を覚えていてくれた。

それが何より嬉しくて。


「そういえば…名前、まだ聞いてなかったわ」


何という名前なのだろう。

色々想像しては、本人が登場したら答えを教えてもらおうと胸を弾ませる。

しかし――。



「絵師様……?」



この日、いくら待っても青年は来なかった。