今昔狐物語



 それから食事を終えた二人はカフェーを出て銀座の街を離れた。

巽の家の近くまで戻り、例の公園を目指しぷらぷら歩く。


「あ、かわいい櫛(クシ)!」

商店が軒を連ねる道を歩いていた時のこと。

ふと、簪や櫛が売られている店の前で可愛が立ち止まった。

瞳をキラキラさせて綺麗な飾り櫛を見つめる彼女を「女の子だなぁ」としみじみ思いながら巽も傍に寄る。


「気に入ったものがあった?」

「この蝶々、かわいいの!」

「ああ、成る程。君は蝶が好きと言っていたっけね」

可愛が指差して「これこれ!」と教えてくれたものは、満月を半分に割った形の飾り櫛。

黒い塗りに白い蝶が舞う美しいデザインだ。


「……うん。綺麗だ」


きっと可愛に似合う。

巽はそれを手に取った。

「あ、どうして持つの?もっと見ていたいのに」

「気に入ったんだろう?買ってあげるよ」