結局、巽と同じオムレツを頼んだ可愛。
少し待っていると着物に白いエプロン姿の女給が食事を運んできてくれた。
「ねえねえ、絵師様」
「ん?なんだい」
「今日はどうして私を誘ってくれたの?」
オムレツをまぐまぐと美味しそうに頬張りながら可愛が尋ねる。
「ああ…言っただろう?お嬢さんのことをもっと知りたくなったって」
「そのお嬢さんって呼び方やめて!私の名前は可愛よ」
「えの…?えのちゃんか。かわいい名前だ」
思ったまま素直に褒めると可愛の頬が火照り出す。
それは巽も気づいてしまう程わかりやすい反応だった。
「は、話をそらさないで欲しいの!」
「ふふっ、はいはい。誘った理由だっけ?君に興味があるのは嘘じゃないけど、本当のところお礼がしたかったからだよ」
「お礼?私、何か絵師様にしてあげたかしら?」
全く心当たりがないのか首を傾げる。
そんな可愛に巽は小さく笑った。
「うん……くれたよ。大切なもの」
「えっ、なになに!?」
「ひーみーつー」
「むう、絵師様のけちん坊さん」
はぐらかして
内緒にして
巽は静かに一線を引く。
彼女のころころ変わる表情を、愛おしげに見つめながら。



