「ここのカフェーは珈琲だけじゃなくて食事も出してくれるんだ。何か食べるかい?」
巽が何度か通ったことのあるそこは、バックにピアノ演奏が流れる落ち着いた雰囲気の店だった。
客は皆、珈琲を飲んだり仲間内で会話を弾ませたりと、外と切り離されたこの空間でのんびりした時間を過ごしている。
可愛はそんな周囲を興味深げに眺めながら巽の質問に答えた。
「油揚げはないかしら?」
「え?油揚げ?」
「そう!私の好物よ」
「それって、君がお狐様だから?」
昨日の「私は狐」発言を思い出してそう聞いてみれば、なぜか目の前の少女はむくれてしまった。
「絵師様、まだ信じてないのね!」
「いやいや信じてますよ。うん」
「嘘つきー!目が笑ってるわ」
彼の目が笑っているのは仕方ないことだろう。
こんな風に気を遣わず、相手と話ができることを巽は楽しんでいた。
彼女が自然体だから巽も自然体になれる。
(俺の病を知ってる家族とは、ろくに会話もできないからな)
家では親兄弟、使用人までもが自分を避ける。
可愛にも感染する病のことを教えたら避けられてしまうだろうか。
あの、汚いものを見るような瞳で…。
「絵師様?どうしたの?ぼんやりしてるわ」
「あっ……ごめん。ちょっと考え事をしていてね」
「考え事より油揚げよ。油揚げっ」
「ん~、油揚げは……ないかもな」



