「人間に、恨み…?人間に何かされたの?」
心配そうな声を発しながら美しい狐の顔を見上げる。
人間に化けた姿がここまで魅力的なのはおそらく、もとが美しい狐なのだろう。
そんなことを頭の片隅で考えていると、怯えや嘆きが見え隠れする瞳に強く見つめられた。
「聞いてくれるか?信じられぬかもしれぬが…俺はもともと野狐ではなかったのだ」
狐は静かに語り始めた。
「昔、俺は神聖な黒狐として、ある地域で祀(マツ)られていた。しかし…その地域に飢饉が起きた」
稀なる酷い飢饉だった。
人間は自分達の日々の糧を得ることに必死で、神仏に供えものをする余裕はなくなった。
飛牙がいた小さな社にも、いつも作物が供えられていたが飢饉となってはそれもなくなった。
それは別にいい。
問題はそれではないのだ。



