「絵師様!」
約束の公園、桜の下に来てみればすでに見慣れたお嬢さんが明るい笑顔を振り撒いていた。
「おや、ごめんね。早く来たつもりだったけど…待たせちゃった?」
「大丈夫よ!待ってる間に桜を見てたから」
どうやら彼女は桜の木がお気に入りらしい。
確かに美しいからなぁと巽も思う。
そして自分がここに訪れた最初の理由も桜が目当てだったことを思い出した。
「さ、行きましょう!銀ぶらするのよ」
彼女の瞳は常に好奇心に満ちているようだ。
とても生き生きしていて綺麗だと巽が強く感じるのは、発病してからというもの彼の瞳が死んでいたせいだからかもしれない。
「あれ?白粉…?」
可愛の顔を見つめていたら、ふと気づいてしまった。
「へぇ、めかし込んできてくれたのかい?嬉しいな」
昨日は化粧などしていなかった。
思い出しながらニコリと微笑んで嬉しさをわかりやすくアピールすれば可愛はプイッとそっぽを向く。
「あ、あなたのためなんかじゃないんだからね!女の嗜みなのよ!」
「ふふっ、はいはい」
真っ赤に染まる彼女の耳を見なかったことにして、巽は手を繋いだ。
デートの始まりだ。



