「……巽さん、無茶しないで…もっと身体を大事にして下さいな。それにあまり外出が多いと、お父様に療養所へ行けと言われてしまいますよ。他人様に移すようなことがあってはいけません」
感染する病だということは百も承知。
けれど青年、巽はそれを受け入れられずに自由を求めた。
いきなり発症して、結核だと、先が長くないと告げられた時も実感が湧かずに外出を繰り返した。
(それで良いと思ってた。移したって、他人のことなんか知るかと…)
それなのに――。
(あのお嬢さんには……移したくないな)
脳裏に浮かんだのは最近会うようになった無邪気で明るいおかっぱ髪の少女。
(会いたい……)
もう一度、彼女に会いたい。
「なら……今日だけ。今日だけ見逃して下さい。今日を最後に好き勝手な外出は控えます」
「……わかりました」
納得してくれた母親に対し、静かに一礼すると巽は逃げるように家を出た。



