「というわけで、母上様。明日は街に遊びに行ってきます」
その日の夜、山奥にある屋敷へ戻った可愛はくつろぐ両親の前で昼の出来事を報告した。
「何が“というわけ”だ。人間と銀ぶらだと?可愛、外出禁止にするぞ」
「え~!父上様のけちん坊さん!」
「ほんに、ドけちじゃの、阿多羅。好いた雄との逢い引きならば良いではないか。こういう時、親というものは娘のために温かく見守ってやるべきぞ。可愛よ、我は構わぬゆえ。行って参れ」
母、嵐華が味方についた。
小さくガッツポーズをする。
「ではでは、母上様!おめかししたいので、後で手伝って下さいませ!」
「ふふ、良いぞ」
「めかし込むとか…気合い入ってるなぁー。姉上」
父親譲りの茶髪を掻き上げながら弟の火叉七(ホサナ)がのんびり傍観を決め込む。
この流れに焦ったのはお小言の多い阿多羅だ。
「可愛!本当に行くつもりなのか!?」
「はい父上様!嵐が来ようが槍が降ろうが、ぜーったい行きます!あ、お土産いりますか?」
能天気な愛娘に阿多羅は大きな溜息をついた。
ふと、昔の嵐華を思い出す。
自分の最愛なる主も、よく村に遊びに行くと言っては屋敷を飛び出していた。
「誰かに似て…とてもお転婆だ」
「阿多羅?一言余計ぞ」
嵐華は手にしていた扇で夫の頭を小突いたのだった。



