可愛をモデルに描き始めた青年は表情を変えた。

先程までの柔らかい雰囲気はどこへやら、鋭い眼差しで題材を見つめては紙に筆を滑らせる。

隣に座ってその様子を見守っている可愛はちょっぴり緊張していた。


(なんだか、変な感じね)


一人の人間にこんな間近で、しかも真剣に見つめられた経験などないので照れ臭い。

可愛の心はむず痒くて仕方なかった。


(まだ終わらないのかしら?今どこを描いてるの?)


気になっていたら不意に目が合った。


ドキリ――。


(もしかして…私の目を、描いてる?)


会話はなかったが、それで正しかったのだろう。

青年はしばらく可愛の目から視線を離さなかった。


(うう~!初めて知ったわ!目を見られるのがこんなに恥ずかしいだなんて…!)


彼の熱い視線に耐え切れず耳をほんのり赤らめながらキョロと視線を他へやる。

すると、桜と共にひらひら舞う蝶を視界に捉えた。

「あ!蝶々!」