今昔狐物語


「ちよは、俺が野狐になって殺さなかった…初めての人間だ」

痛いほどに身体を引き寄せられる。


「お前のような人間もいるとわかって、どれだけ心が救われたか…ちよにはわかるまい」


心が震えた。


人を喰らう獣にこんな繊細な感情があるなんて思いもしなかった。


「私…あなたのような人を食べる野蛮な狐に、心なんてないと思ってた。けど…違うのね」


飛牙は苦しかったのかもしれない。

人を殺し、喰らうということに縛られていたのかもしれない。


「ねえ、飛牙はなぜ人間を食べるの?」


単に美味なのか。

それとも他に理由が…?


すると彼は、少し躊躇ってから話し出した。


「俺は…人間に恨みがあるのだ」