公園の桜が満開だった。
薄桃色の花吹雪が舞う中を、赤い振袖に番傘をさした黒髪の少女が歩く。
「いのち短し、恋せよ乙女」
流行り唄を口ずさみながら。
「あかき唇、あせぬ間に」
整えられたおかっぱ髪に、椿の花飾りをつけた彼女の名前は可愛(エノ)。
人に化けたお狐様だ。
「あ~!今日もいる!ここは私の特等席なのよ?」
とある桜の木の下にて。
可愛は最近よく見かける青年に話し掛けた。
「おや、今日も元気だね。お嬢さん。うらやましいな」
立襟の白いシャツに深緑色の着物と袴。
爽やかな笑顔で可愛を見上げる彼の黒髪が穏やかな風に吹かれて揺れる。
「はぐらかさないでちょうだい!もちろんお隣りよろしいわよね?」
「どうぞ。お嬢さんのためなら横にちょいとずれるくらい、苦ではありませんってね」
桜の木の下にしゃがみ込んでいた青年は、少し横に動いて可愛のためのスペースを空けてやった。