今昔狐物語



「子供の名前、何にする?」


普段となんら変わらない、落ち着いた声だった。

意表をつかれ、玖羅加は目を開けた。

「双子の男の子だよ?どんなのがいいかな?」

「ま、りさ…」

「ん?何?玖羅加」


至って普通の鞠紗に、玖羅加の方が耐え切れず怒鳴った。


「なぜ怒らないの!?僕はずっと君の夫に化けてたんだ!ずっと、ずっと鞠紗を騙してたんだよっ!?」


すると、鞠紗は静かにこう答えた。


「うん。何となく、わかってた」


玖羅加の動きが止まる。


「玖羅加が現れてからも、何となく…しゅーちゃんが本当のしゅーちゃんじゃない気がして…。話し方はぶっきらぼうになっても、やっぱり前のしゅーちゃんより優しかったから…」


「わかってたなら…なんで…なんで突き放さなかったんだ!!なぜ僕を受け入れたの!?」


問い詰めるような声に怯むことなく、鞠紗はふんわり微笑んだ。


「それは………玖羅加、だから」


彼女の瞳に優しい光が灯る。


「正体が玖羅加なら、いいやって思ったの」


答えは単純で。


「あなたが、好きだから」