今昔狐物語



 会いに行け、と父親に叱咤され、しぶしぶ鞠紗のもとを訪れた玖羅加。

会いたくなかった。

けれど、会いたくて。

自分から逃げ出しておいて、追いかけてきてくれたことが嬉しくて。


(君に触れたい)


しかし、合わす顔がないことはよくわかっている。

玖羅加は相反する心のうちに葛藤していた。

そうして気づいたら一週間が過ぎていたのだ。


(鞠紗に触れたい…抱きしめてほしい。今の僕は、とても寒いんだ…寒くて、心が死にそうだよ…)


玖羅加は潤んだ瞳で鞠紗を見つめた。

鞠紗も、修平の姿ではない夫を真っ直ぐ見つめる。


「ねえ、玖羅加」

先に話し出したのは鞠紗だった。

罵倒されるだろうか。

泣かれるだろうか。

怒鳴り散らされるかもしれない。

玖羅加は覚悟してギュッと目をつぶった。