今昔狐物語


「お前が玖羅加の妻か?」

何者かがフワリと目の前に舞い降りた。

黒い長髪。

金色の瞳。

尖った耳。


「玖羅加!?」

一瞬、玖羅加かと思った。

しかし、この玖羅加に似た男は笑いながら否定した。

「俺は玖羅加ではない。飛牙だ」

「飛、牙…?」

「そう。玖羅加の父よ」

この台詞に鞠紗は目を丸くした。

「玖羅加の、お父さん!?」

初めて目にした玖羅加の父親。

息子とそっくりである。

「お前はなぜ一人でここにいる?玖羅加はどうした」

「それが…玖羅加が帰ってこなくて…」

「探しに来たのか。ハッ、あの愚息が。己の妻に迷惑かけおって」

飛牙はやれやれと溜息を吐くと、こう言った。

「わかった。俺があの馬鹿を連れてこよう。しばし待て」

そのまま背を向けて駆け出そうとする。

そんな彼を、鞠紗が呼び止めた。

「あ、あの!」

「ん?なんだ?」