今昔狐物語




 双子が生まれてから、一週間が過ぎた。

「よしよし、いい子ねー」

その間、夫は一度も家に帰って来なかった。

鞠紗は双子に乳をやりながら、玖羅加のことを思った。


(玖羅加…どこにいるのかな?もう、戻ってこないつもり?)


と、その時。

「痛っ!」

乳房に痛みを感じた。

「あ~、あんまり噛まないでね。痛いよ」

赤ん坊が牙を立てたのだ。

加減がわからないらしく、しょっちゅう噛まれてしまう。

今は平気だったが、昨日などは血が出てしまった。


「お母さ~ん、ちょっと双子を見ててくれる?」

乳をやり終えた鞠紗は、世話の手伝いに来てくれていた母親に赤ん坊を預けた。

「いいけど…どこか行くの?」

出掛け仕度をする娘に母親が不安そうに尋ねる。

「うん。恥ずかしがりやで引っ込み思案な手のかかる夫を探してくるよ」


そう言うと鞠紗は家を出て、竹やぶの方に向かって歩き出した。