パンッ――!!
突然、玖羅加の頬が鳴った。
「黙りなさい玖羅加!!」
水真馳が怒鳴った。
目を丸くして叩かれた頬を摩りながら、怒りを孕んだおじの瞳を凝視する。
「水真、馳?」
なぜ叩かれたのか、わからなかった。
言葉を失っていると、水真馳が語り出した。
「私も、人間の妻を娶りました。けれど、彼女は女郎で…年季奉公が終わり、私の妻となってから一年後…この世を去りました」
玖羅加がハッと息を呑む。
水真馳は続けた。
「女郎として働いていた彼女の身体はボロボロだったんです。病にもかかっており、子供もなさずに亡くなりましたが…最期まで、幸せそうでした」
水真馳は玖羅加を真正面から見つめた。
戸惑い迷う甥っ子に、穏やかな眼差しを送る。
「わかりますか?玖羅加。大切な相手との間に子供がなせる。これは奇跡なんですよ。特に私達狐と人間は、生きる時間も社会も考え方も違います。それでも子供に恵まれ、子孫を残せるのは奇跡以外のなにものでもありません。ですから、玖羅加。自分の子供を…否定しないで下さい」



