今昔狐物語


「もう…必要ない」

玖羅加は小さな声で呟いた。

「え?」

「もう…僕は、村には戻れない」

囁きのような声は、ともすれば風の音に掻き消されてしまいそうに儚い。

「なぜですか?」

「………」

「言いたくありませんか?」


優しく問い掛ける水真馳に、玖羅加は溜息を零してから話し出した。


「………子供が生まれたんだ。僕と…鞠紗の子供」

「それは…!良かったですね。おめでとうございます玖羅加。飛牙にはもう伝えましたか?」

嬉しそうに微笑んでいる呑気な水真馳の態度に、玖羅加は声を張り上げた。

「良くないっ!良くないよ!鞠紗は混血の子供を生んだんだ!村の人から忌み嫌われて迫害されるかもしれない!僕のようにっ…!」