今昔狐物語


「………………そうか」

やっと見つけた言葉は、たったそれだけ。

ちよの瞳を理解して、飛牙は悲しげに微笑んだ。


(まるで、昔の俺だ…)


飛牙の心も虚無を知っている。

そして、その虚無を埋めるために人を喰らうのだ。


「お兄ちゃんの死体はどこ?」


気になっていたのか、ちよが唐突に尋ねた。

「ああ、いつもの場所に捨ててきた。今頃、村人どもが見つけているだろう」


父や母の嘆き悲しむ姿が見えるようだ。

やる瀬なさに視線を下方へそらした時だった。

ふと目に入ったもの。

ちよは飛牙が左手に掴んでいるものを指摘した。

「それは…?」

「ん?おお、そうだ。ちよのために捕まえてきた。朝飯だ」

そう言って彼が左手を持ち上げた。


「た…狸?」

「こいつを煮るなり焼くなり好きにして喰え」


飛牙に尻尾をむんずと掴まれ捕獲された子狸。

必死に暴れているが無意味に終わっている。