涙を零しながら暴れるちよに、飛牙はある提案をした。
「ちよ、お前が俺の妻となったら…俺はもう人を喰わぬ」
「え…?」
「約束する。お前が妻となった暁には、普通の狐と同様、野の鳥や兎を喰らい生きよう」
金色の瞳が切なげに細められる。
「お前とならば…ちよとならば、俺は…」
兄を殺した時とは違う、酷く弱々しい声だった。
「この忌まわしき邪から、逃れることができよう…」
闇夜に赤い狐火が浮かぶ。
その夜、ちよは何も返す言葉が出てこなかった。
ただ、静かに抱きしめてくる狐の腕の中で、泣くことしかできなかった。



