目覚めたのは、先程よりも強くなった血の臭いのせいだった。
洞穴の中に異臭がする。
「うっ…な、に?」
横たわっていた地面から起き上がり、思わず手で鼻を覆った。
辺りを見回すと、広い洞穴の端っこに飛牙の姿を認めた。
彼はちよに背を向けうずくまり、何やらむしゃむしゃと食べている。
「飛牙…?」
不審に思い声をかけた。
すると…。
「ん?起きたか。ちよ」
「ひっ!飛、牙…あなた…何を、食べて…」
声が震えた。
見てしまったからだ。
「ああ…これは先程の男。お前の兄だ」
口元を真っ赤に染め、人を喰らう。
人喰い狐。
「ま、さか…あなたが、村の人達を食べてた、の…?」
人の姿のまま人を喰らう狐。
彼は自分の手についた血をペろりと舐めると絶望的な台詞を口にした。
「その通りだ。俺は野狐(ヤコ)だからな。人に仇(アダ)なす狐だよ」



