今昔狐物語




 翌日の真夜中。

月に何度かの狐達の集会で、水真馳はいつもの洞穴にいた。


「どうした?水真馳。何かあったのか?」

いつになくボーッとしている水真馳に、茶色い狐の阿多羅が問い掛ける。

「いえ…。大したことでは…」

「昨夜、花街に行ったらしいな。惚れた女郎でもいるのか?」

飛牙が低く甘ったるい声で水真馳の神経を刺激した。

黒狐の唇が美しい弧をつくる。


「水真馳にもやっと春が訪れた、か…」

「からかわないで下さいよ、遊真」

遊真にまでつつかれて、水真馳は頬を膨らませた。


今、洞穴にいるのは水真馳と阿多羅、飛牙に遊真に玖羅加、それから他の地域に住む狐達多数。

皆、思い思いに仲間と談笑している。


「花街か…。とんと行っていないが…そうだな。おい、玖羅加」