今昔狐物語


すると…。

「あんた達!姦(カシマ)しいにもほどがありんす!!」

旦那の相手をしていた遊女が襖をガバッと開けた。


「あ…」

麗しの旦那と目があった。

蛍は一瞬、頬を染めたが、それはすぐさま驚愕の表情に変わった。

「し、尻尾が!」


見えた。

びっくりして目を見開く。


「蛍!早う向こう行きなんし」

「でも、あの旦那…尻尾が…!」

遊女は蛍の背を押しながら馬鹿にしたように言った。

「何でありんす?尻尾?そんなもん主様(ヌシサマ)にありんせん。それとも蛍は、主様が狐狸(コリ)の類いだとでも?」

蛍は自分にしかあの耳と尻尾は見えていないことに気づいた。

「ほら。後生だから、邪魔しないでおくんなんし」

「あい…」

蛍はもやもやした気持ちを抱えたまま、大人しくその場から退いた。



「…蛍…」

水真馳は自分の尻尾を指摘した遊女の名を口にし、頭の中で反芻させた。


(とても愛らしい子でしたね)


そんなことを意識の水面下に思いながら…。