この夜、振袖新造の蛍(ホタル)は客を相手につくり笑いを浮かべていた。


「お出でなんし~。蛍でありんす。お酌、わっちがしんす」

「蛍か。夕霧(ユウギリ)はまた他の男の座敷か?」

「野暮なこといいなんすな。夕霧姐さんが来るまで、わっちがお相手しんす」


いつものことだ。

自分の姐さんの馴染み客の話し相手。

振袖新造は客と床を共にすることはないが、姐さんの大事なお得意様を楽しませるよう任される。


(夕霧姐さんは今、別の馴染みを相手してるから…仕方ないけど…)


この客は嫌だ。

蛍は心底そう思った。


(中年だし、助平だし、顔良くないし)


欠点をあげればいくらでも出てくる。

だが、姐さんの馴染みだから無下にできない。