「…入ります」


部屋に視線を巡らして、

左の奥の隅に抜け殻のような生気のない人形が、

当てもない場所を見つめている。


儚げに咲く華は

俺に気付き笑って手を振った。


「桐里様下へお降り下さい」


「嫌です」

「意固地にならないでほしいのですが」


「…貴方様ではなく

菊乃丞様に呼びに来てもらいたかったです」


恋人同士でもないが、

それに近い俺たち。


その俺を振った桐里様。


「…もう貴方様の顔を見たくはありません」


「……騙していたわけではない。

俺は…霧里が桐島様の娘さんだとは知らずに

好意を寄せていた」


「嘘です」


「嘘じゃない!!」


声を張り上げてしまい、

口を閉ざして息を整え

桐島様の身を自分に寄せた。