頭を抱えるワタルはどうしようかと思案する。

罰ゲームといえど、所詮は子供の遊び。また逃げればいいのでは?
しかし、それは男のプライドというか、年下相手にみっともなく逃げるなんて到底できない、年上の意地というか。

なんにせよ、逃げるという選択肢はない。


なら、このままここで大人しく罰ゲームを受けろと?冗談じゃない。
死にかけるほどの罰ゲームなど、こんなふざけた遊びで受けてなるものか。

ならばどうすべきか。
残った選択肢はひとつ。


はぁぁ、と深い溜め息をついたワタルは、この神社に来たときから姿の見えない二人に声をかける。


「二人とも、いい加減出てきてよ。生憎、俺は子供相手にあたふたするほど間抜けじゃないんでね」

「は?ワタル、一体誰に話しかけてんだよ。…罰ゲームのショックで、とうとう頭がおかしくなっちまったか」


なんて哀れな。悲哀の籠った目でワタルを見つめるエルに、ワタルは苦笑して肩をすくめた。

エルにはきっと分からまい。
見えないだろう、『彼ら』の姿が。


「痛い思いすんの嫌だもん、俺。ていうか、そこに隠れてんのバレバレだから!」


ワタルの向けた視線の先、松の木の影からは、ふよふよと浮かぶ白い着物と赤い着物の裾が見え隠れしている。

ワタルが指摘したことで、その着物を羽織る人物がひょっこりと松の木から顔を覗かせた。


<あらあ、やっぱバレてはりましたか。さっすがワタルはん、わてのラブオーラをびんびんに感じてくれはったんやねっ!>

<ぶくくっ、アホ猿共に目を丸くするテメェの阿呆面、しっかりと拝ませてもらったぜ、ワタル>

「もう、二人共ほんと悪趣味だって」


けらけらと笑いながらワタルのもとへ飛んでくる妖怪二人、療杏と豪蓮に、ワタルは頬を膨らませる。

ここに来たときからずっと、ワタルの様子を観察していたのだ。
それを肴に笑いこける妖怪二人は、こうしてワタルにばれるまで松の木の影やら本殿の影に隠れていたという。


周りから見れば、誰も見当たらない場所を睨み愚痴を溢すワタルは、ひどく異質に見えるだろう。

現に、エルと神猿兄弟のキカズとイワナも首をかしげている。3人の頭上は、疑問符だらけだ。


「で、なんだっけ?罰ゲーム?死ぬほどヤバいやつなんだってさ」

<はははっ、ワタルはんがそない罰、おとなしゅう受けるわけあらへんやろ>

<右に同じ。それで?ワタルはどうしてえっつーんだよ>

「ん、俺?俺はねぇ…」


背中に乗ったままのイワナをチラリと見てから、ワタルはにやりと口角を上げる。

まさに、不敵な笑みで、ワタルはその可愛らしいショタ顔でこう言うのだ。



「猿の子の相手ってやつ?」



新人エリート育成プロジェクト第8グループクエスト、『猿の子の相手』。

…相手というのはつまり、色んな意味があるんだろうね?

ゾッとする笑みを浮かべ、ワタルはその瞳を僅かに灯らせたのだった。


その場にいる、ワタルたち3人以外はまだ、この先の展開を知らない。

恐ろしい未来が待っていることを、知らないのだ。