とうとうワタルが暴走するかのその手前、怒りで震えるワタルの体に、ずしりとした重みが乗っかった。

思わず前のめりに転けそうになるところをギリギリ踏みとどまり、背中の重みの原因に目を向ける。

そこにいたのはまた、緑のサルだった。


「え。と、…三つ子っ?!」

「俺さっき言ったじゃん。ミナイには弟二人いるってよう!」


ふんっ、と腰に手をあて口を『へ』にするエル。
ワタルは口をあんぐりと開けている。

背中に乗っている緑のサル、この子もまた同じように緑の髪をし、おんなじ顔で、おんなじ体型で。

ひとつ違うところは、白いゴーグルでもなく白いヘッドフォンでもなく、白いマスクをしているということだ。


そしてその白マスクをした緑髪のサル少年が、神猿兄弟三男坊だという。

ワタルにおんぶ状態で乗っかる白マスク少年は、脇に常備していたでろうマジックとスケッチブックに何か書き込み、それをワタルに見せた。


【神猿兄弟三男坊の、衣罠(いわな)だよーん。イワナ、もしくはイッちゃんて読んでね☆うふふふ☆】

「……。(え?)」


無駄にテンションの高い文章に、思わず固まってしまう。

そうしている間にも、イワナはまた新たに書き込んではワタルに見せた。


【にーちゃん捕まえたぜよぜよ。鬼ごっこ、きみの負けぽよ~】

「……。ああっ!」


多少その文にイラッとしたが、そうではない。そこではないのだ。

鬼ごっこで、鬼(サル)に、捕まってしまったのだ。つまりは負け。

ワタルは大声を出して頭を抱えた。


「ま、じ、かぁぁー!うっそ負け?!俺負けたとか…うっわぁぁ」

【ぷぷぷ、ざまみー】

「すげえ落ち込みようだなワタル…」


ワタルの背の上で文を書き連ねるイワナは、笑い声さえも文字とする。

なんて面倒臭い奴だと思いつつも、負けたことに変わりはない。こんな、面倒臭い奴に、ワタルは捕まってしまったのだから。


「あーあ、イワナに捕まっちゃったか。君、不運だね。まあ僕には関係ないけど」

【キカズ兄ちゃん、この人、罰ゲームいっちゃっていい感じ?】

「いい感じ」

「(全然よくない!)」


というか、早く背中から下りてほしいのだけれど。