サル。猿とは、人間の元祖だと言われている。我々人類は、猿が進化したものだと。

つまり、猿と人間の容姿は少なからず近い。毛色も大体は黒、茶、といったところだろう。

はっきり言おう。
緑色のサルは存在しえないと。

例え異世界であれど、なぜにサルが緑に染まらなければならんのだ。食い物か?なにか緑のものを食い過ぎて緑色に染まったのか?

ありえない。

ワタルの頭の中では、頭痛がするほどの大混乱が起こっている。


「あのね、サルは普通ね、茶色だとかそこらへんの毛色だと思うんだ。一般常識的に考えて、緑はない」


大体、緑のサルに殺されかけているとはどういうことなのだ。
そんな異質極まりない生物に生涯を終わらせられるなど、お笑い種以外のなんでもない。

血に染まった緑のサルなど、想像しただけで吐き気がする。


「いやでも、本当にいるんだって!実際この目で見たんだっつの!」

「えぇぇ…、緑色のコンタクトでもしてたからじゃないの?」

「違うわ!つーか俺の目は青色だっつの!目もばんばんいいっつーの!」


どれだけ声を荒げようと、なかなかに信じてくれないワタルにエルは地団駄を踏む。

子供らしいその仕草に、ますます頭がおかしくなってそんなメルヘンなものを見るようになったんじゃないか、とワタルはジト目を向けた。

とうとう、エルの説得できないもどかしさが爆発する。


「あああもうっ!そんなに信じらんねーっつーんならっ、自分の目で確かめてみろよ!」

「そうは言っても、どこにいる…」



「ここにいるぜぇ?」



どかーんッ、突然の爆風と共に、ワタルたちの目の前に人が現れた。

いつの間にやら、鳥居の上に腰を下ろしこちらを見下ろしているその人物は、にしゃりと口角を上げて口を開く。



「俺はこの神社の持ち主、人呼んで【見ざるのミナイ】。あんたら、クエスト受けに来たんだろう?へへっ、知ってるもんねぇ~」

「な、え…君だれ?」


ぽかんと口を開けるワタルに、鳥居上の人物は腰に手をあて、えっへんと立ち上がる。


「おさるでござる!」


うきっ!サルのポーズをする人物。

「……。」ああ、本当だ。エルの言った通り。


緑のサルが、そこにいた。