低い、それでも明るい声で、あの風の強い日に、体中怪我をしていたあの男の人が言っていた。

 人生で困難な時には、それをやってみろって先輩が――――――――――

 忘れていたのに、その時はほとんど呆然としていてちゃんと聞いてはいなかったと思っていたのに、ちゃんと私の耳はそれを聞いていたのだった。そして覚えていた。

 背筋をピンと伸ばして、思わず座りなおしたのだ。

 ・・・やってみようかって。

 私が未だに離婚をした5年前に捉われているとは、思いたくない。実際はもうほとんど大丈夫なはずなのだ。だけど、生活はさほど変わってない。そろそろちゃんと動き出す、そういう時期なのかも――――――――――

 新しいことを始めるのには、案外キッカケや体力がいるものだ。私は販売を拡大するに当たって、彼の言葉をスタートの理由にはめ込んだ。

 サイトを作り、宣伝する。口座を別に用意して、配送用にオリジナルの袋を作った。それらの作業は疲れたけれど楽しかった。

 知人とその口コミで注文してくれた人だけを相手にする販売、それでは食べていくなんてことは出来ない。そんな大きな収入にはなるにはもっと工夫が必要だろうと判っていた。だから、まだしばらくは元夫がくれた慰謝料という名前の大金を少しずつ使っていくことになりそうだった。それは悔しいことだったから、食費以外には使わない。

 家賃やその他は、アクセサリーの販売で捻出する。それでも足りない分だけを、元夫がくれたお金で賄っていく。