「わた、し……」
それどころか、沙弥は……もしかしたら、特典を放棄するかもしれない。
ずっと片想いを隠し続けてきた沙弥。
時間がないとわかったからって、すぐに行動を変えるのはきっとむずかしい。
それでも、あたしは沙弥に一歩前に進んでほしい。
自分の意思で、幸せに手を伸ばしてほしい。
あたしに出来るのは、ここまでだ。
だから沙弥。がんばれ。
勇気を出して。がんばって。
「どうなんですか? 桂木さん!」
「……あの。ここで言うのは恥ずかしいので、後日改めて、個人的にお願いに行きたいと、思います」
震える声で、マイクでぎりぎり拾えるような声で沙弥はそう言った。
確かに言った。
再び体育館が沸く。
男女の声が入り乱れて、相手は誰だと野次を飛ばす。


